よく、「自分のものにならないのなら殺してしまえ」と言う台詞を聞く

本当にそれで殺せてしまうのだから人間ってやつは何て馬鹿なのか

殺してしまえばそれで終わり

 

憎んでも恨んでも想っても貰えなくなることに気付かない なんて

 

 

 

ホワイトベール

 

 

 

此処のところめっきり仕事の量が減って居る事に気が付いた。
おかげで収入はさっぱりだ。
いったいどうやって生活をやりくりしろってんだ。

世間的に冬と呼ばれる季節に入っている今、レンガ造りの道は僅かな雪に覆われていた。
真新しい雪に足跡を残しながら、久しぶりの仕事を終えて店に戻る。
溜息を付けば白い息がふわりと上がり空気に溶けた

 

不意に視線を上げるとそこにはシネマの宣伝があった。

題名から察するにいかにも恋愛メロドラマのようで、少し嫌な気分になった。
あおり文句が「手に入らないならば、いっそ」だなんて陳腐すぎる。

 

(いっそ殺してしまうのか)

 

ゆっくりと再び歩き出す。
不意に胸に下げたアミュレットへと視線が落ちた。
一つではなく二つのアミュレットが繋がっているそれは幾分か重く、胸の上に確かな存在を示している。

 

(それで手に入れた気分になっているうちは幸せなんだろうな)

 

喪失感は一瞬

続いてその命の全てを自分の手が断ち切ったのだという絶望と共に、

虚無感が訪れた

 

(もう二度とあの目も口も見れない声も聞けないあの殺意に満ちた感情さえ向けてもらえない)

 

自然と歩くスピードが早くなる
もうずっと昔に思えるあの目とあの声を思い出して目を閉じた
自分の靴音と脳裏に過ぎるアンタの声

 

「バージル」

 

アンタの名前を呼ぶのはこんなにも容易い。
なのにアンタの声を真似て俺を呼ぼうとしたって、鏡に向かってどんなに話しかけたって

俺はアンタになれない

 

(同じ、双子のはずなのに な)

 

この手にはまだアンタを殺した感触が残っている
それを拭うかのように悪魔を殺しまくって 何が残るのか

 

俺の中に残るアンタは何時までも変わらない それがどうしようもなく、辛い。

 

 

目を開けると雪が降っていた
どうりで寒く感じるわけだ。
コートの前を閉めて襟を立て、首をすくめる。

この寒さもアンタが居たなら感じなかったのか なんて