ラックが部屋に入ったとき、珍しくキースが椅子に座ったまま眠っていた。
相談したいことがあったのにと小さく息を吐いて隣の椅子に腰を下ろす。
(寝てる時も表情が変わらないんだから)
表情を観察して思わず小さく笑う
寝てる時くらい唇を開いて寝ればいいのにと呟いて、毛布でも持ってこよう、とラックが腰を上げたときだった。
「ラック」
一瞬誰に呼ばれたのか分からなかったが、声の主が誰かを思い出して反射的に振り返る。
しかし声の主であるキースは目蓋を閉じ腕を組んだままで身動き一つしようとしない。
続く言葉もないことから、どうやら今のは寝言であることがわかった。
(珍しいな)
キースが寝言を言うことは日常で喋ることよりも貴重なことだ。
しかもその寝言の内容が自分の名前であったことにラックは少なからず驚いていた。
一体何の夢を見て居るのかと気になったがそれは起きたときにでも訪ねてみることにする。
答えが返ってくることは期待していないが、とりあえず問いかけるということをしないと半永久的に会話が行われないのだから何かきっかけだけでも与えたい。
(……嬉しい、かもね)
普段ですら滅多に声を聞かないのに、もっと貴重な寝言で名前を呼んでもらえるとは。
そんなこと本人には決して言うつもりはないのだが緩む頬を押さえきれない。ああ、やはり自分は幹部には向いていない。
そんな今日この時