よくよく考えてみれば俺は結構アイツに好意を伝えているはず、だ

 

 

 

 

愛しています誰よりも

 

 

 

 

「オイ、グラハム」
「何?兄貴」

 

名前を呼ぶだけで嬉しそうにひょこひょこと顔を出すグラハムを見て眉根を寄せる
なんだってコイツはこんなに好意を全面に押し出してるんだ恥ってもんはねぇのかコイツ

 

「好きだ」
「俺も大好きですよ兄貴!」

 

ぱあっと顔が明るくなったのが傍目から見ても分かるほど反応が顕著でしょうがない
が、この返答に俺の言いたい感情が伝わっているのかと思うと少し怪しい。

コイツの好きって言葉の意味は本当にそのままライクなんじゃないだろうか

だからこそこんなに簡単に好きだのなんだのと言えるんだろう

つまりは好物を好きだというのと同じってわけだ

 

(……なんかムカツク)

 

そう思うと尻尾振った忠犬に見えるグラハムに無性に腹が立ってくる
一発は殴らないと気が済まないような感覚を覚えて軽く腕を回してみると、グラハムは何を思ったのか俺の肩に手を置いてきた

 

「何だよ」
「兄貴の肩って綺麗ですよね」
「は?」
「すげー力強いのに、無駄な筋肉が無いから着やせして見えるっつーか」

 

グラハムの指が肩の筋をゆっくりとなぞる
柔らかく触れるその感覚にぞわりとした何かを覚えるものの嫌悪感ではないので好きにさせておく
何が楽しいのかさっぱり分からないが本人はとても楽しそうに笑っていた

 

「グラハム」
「何ですか?」
「……お前の手、好きだ」
「え……うわぁ嬉しいなぁ兄貴がそんなこと言ってくれるなんて。今日は人生最良の日に違いないあぁきっとそうだ今日は俺にとってのハッピーデイ!つまり楽しまなきゃ損ってことだなんて最高な日だ、あぁ最高だ!」

 

暴走し始めたグラハムを見て目を細めるがこれは何時もの事だ
寧ろ今目の前にぬるそうなヤツが居たら俺も同じテンションになりかねないので怒ることも出来ないわけで
思ったよりもモノを考えてんじゃん俺、なんて思いながらごきごきと首を鳴らす

 

「というわけで兄貴 俺に人生最良のプレゼントをください」
「はぁ?何が欲しいってんだ。言っとくけど金はやらねぇ」
「兄貴をください」

 

一瞬何を言ってんだコイツはと呆れの境地に入ったが目は一応真面目のようでどうしたものかと頭を掻く
いっそ拳を一発お見舞いしてやって「コレがプレゼントでいいだろ」なんて言ってやりたいが、人生最良のプレゼントのはずが真逆になっては流石に可哀想だろう

可哀想、なんて考えるあたり恋愛は惚れたほうが負けだというのも頷ける

 

「俺を貰ってどうすんだ」
「赤い屋根の白いお家を買って一緒に住みましょう」

 

駄目だコイツ頭のベクトルがいかれてやがる と俺に思われるとは随分コイツも壊れたもんだな
しかしコイツの言い分を聞いてる辺り、コイツの好きって言葉はラブの意味だということは分かる
となると少しは嬉しいわけで、邪見にしてやるのも気が引ける

 

「馬鹿言ってんじゃねぇもっと現実味あることをしろ」
「え、そんな、兄貴が嫌がっても俺止められませんよ」
「飛躍しすぎだ馬鹿」

 

ぽっと頬を赤らめたグラハムの眼に色欲が見えたので一歩後ずさる
常に好きだなんだと言ってはいたが、それはグラハムが一方的に言っていたことで俺からの返事が行ったのは初めてだ
つまり俺達は今漸く両想いになったというわけで、それなのにいきなりヤることを考えるとは随分と溜まってんのかそれとも只単に急ぎすぎたのか

 

「つか、嫌がってもってなんだ。嫌がってもって。誰が嫌っつった」
「そりゃ、力じゃ兄貴の方が上だしそう簡単には行かないとは思いますけど。でもいくら兄貴でも、ちょっと耳とか噛むか舐めるかさえ出来れば力抜けると思うんですよ。どうですか兄貴」
「どうですかじゃねぇぶちのめすぞ。つーかそこじゃねぇよ。俺が何時嫌つったんだって聞いてんだ」

 

咄嗟に耳を隠して睨みつけると、グラハムはきょとんとした顔で俺を見た。
どうやらグラハムの中で嫌がる俺は基本設定らしく、そうじゃないといけないとでも思っているらしい。
従順な俺は嫌だってのか なんかムカツク

 

「俺はお前が好きだって言っただろうが。信じてねぇのか」

 

少しの間の後、グラハムは顔をぼっと真っ赤に染めた。

わけがわからなくて睨みつけてみると、グラハムがわなわなと唇を振るわせる。

 

「兄貴」
「何だ」

「愛してます」

 

今更ラブの意味の言葉を言うとはどういう了見だこの馬鹿